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山間の町、総内町。
佐倉という名の山があり、そこには同じ名前の神社がある。その名に相応しく、
散り行く桜の花びらが風に舞って境内を鮮やかに彩 っていた。

ある日、まだ文字も書けないような子供が神社の境内で泣いているところを宮司の妻が見つけた。
警察に迷い子として届けが出されたが、結局子供の親は見つからず、
その子供は「彰人」と名づけられ、佐倉山神社の宮司である山縣朋也が引き取ることになった。
『尾崎彰人』3歳の春、早すぎる運命の転機であった。

尾崎彰人と呼ばれるようになり数年が過ぎたころ、宮司の妻に娘が生まれる。
自分が養子であることを知っている彰人は、言い様の無い恐怖を感じた。
養父母に本当の子供が生まれてしまった以上、自分は不要になってしまうのではないか
という直感的な不安であった。「操」という義理の妹と彰人。
いつしか彼らはお互いの気持ちを言葉にして確かめることも必要ないほど、
心通 わせる仲になっていた。  

が、同時に彰人はいつまでも自分がこの立場に甘えている訳にはいかないことを理解していた。
彰人は、東京へ行き、大学への進学を心に決める。
操に釣り合うだけの自らの立場を手に入れなければならない。

彰人の決心を聞いた操は、涙を止めるすべを知らなかった。
ただひたすら別 れを拒み、悲しみ、わがままと取れるほどの感情を発露させた。
そんな操の困惑ぶりを見ても、彰人の心は変わらなかった。  
彰人のその気持ちが痛いほど良く判っていた山縣の養父母は、
操を叱りつけて彰人を東京へと旅立たせたのだった。